
脳の細胞膜を守るリン脂質
「最近、人の名前がすぐ出てこない」「集中しようとしてもすぐ頭が散る」——そんなことが増えてきた、という方は少なくないはずです。
ホスファチジルセリン(Phosphatidylserine、略してPS)は、脳の神経細胞の膜に特に多く含まれるリン脂質の一種。加齢にともなう記憶や認知の維持をテーマにした研究が積み重なっており、日本よりひと足早くアメリカで注目を集めてきた成分です。
この記事では、PSがどんな成分なのか、何が報告されているのか、大豆由来・ひまわり由来の違いはどこにあるのか、飲むタイミングや注意点まで、できるだけわかりやすくまとめました。
ホスファチジルセリンとは? — 基本と歴史
リン脂質、という言葉を聞いても「なんだか化学っぽい」と感じるかもしれません。簡単にいうと、体のあらゆる細胞を包む「膜」の材料となる脂質の一種です。
その中でもホスファチジルセリンは、脳の神経細胞の膜に特に高い濃度で存在しています。体全体に含まれるPSのうち、脳がかなりの割合を占めているほど、脳の神経細胞との関わりが深い成分です。

脳の「膜」って、そんなに大事なものなんですか?

細胞膜は単なる「仕切り」じゃなくて、情報のやりとりをする「窓口」でもあるんです。その窓口の材料が変わると、神経細胞どうしのシグナルの伝わり方にも影響が出ると考えられています。
食べ物としては、豚・牛の脳や内臓に多く含まれていましたが、現代の食生活ではほとんど口にしません。魚や大豆にも含まれますが、量はかなり少なめです。
研究の歴史という点では、1980〜90年代にヨーロッパ(主にイタリア)で、当時は牛の脳由来のPSを使った臨床試験が行われていました。その後、BSE(狂牛病)の問題をきっかけに動物脳由来の製造が事実上なくなり、現在は大豆やひまわり種子を原料とする植物由来PSが主流になっています。
2003年にはアメリカ FDA(食品医薬品局)が、大豆由来PSについて「認知機能の低下リスクを抑える可能性がある」という限定的な健康強調表示(Qualified Health Claim)を認めました。ただしこれは「確実」ではなく「可能性がある」という留保つきのもの。この点は後の科学的な話でも触れます。
もっと詳しく知りたい方へ:FDAの「限定的健康強調表示」とはどういうものか(クリックで展開)
FDAの健康強調表示には、エビデンスの確実度に応じて段階があります。「認定された健康強調表示(Authorized Health Claim)」は科学的な根拠が確立されたもの。一方、大豆PSに認められた「限定的健康強調表示(Qualified Health Claim)」は、「科学的な証拠はあるが、FDA がそれを十分であると確認したわけではない」というものです。つまり可能性を否定しないが確定でもない、という位置づけ。消費者への誤解を防ぐため、表示には「証拠は限定的であり結論ではない(The evidence is limited and not conclusive)」という文言が必要とされています。
体の中での働き — 神経細胞を支えるしくみ

PSが体の中でどんな役割を持つのか、順に見ていきましょう。
細胞膜の「流動性」を保つ
細胞膜は固まったプラスチックのようなものではなく、常に少しやわらかく、「流れる」性質を持っています。このやわらかさ・流れやすさのことを「流動性」と呼びます。
流動性が高いほど、細胞の外と中で情報やものが行き来しやすくなります。PSは細胞膜の構成成分として、この流動性を保つのに関わっています。
加齢とともに脳内のPS量は徐々に減っていくとされており、それに伴って膜の性質が変わっていく可能性が指摘されています。
神経細胞どうしのやりとりに関わる
神経細胞は、化学物質(神経伝達物質)を放出・受け取ることで情報をやりとりしています。PSはアセチルコリンやドーパミンといった神経伝達物質に関わる仕組みと連動していると考えられており、記憶や集中に関する研究が多いのはこのためです。

アセチルコリン…どこかで聞いたことあります。記憶と関係あるやつですよね?

そうです。アセチルコリンは「記憶の神経伝達物質」と呼ばれることもある成分で、PSはその生成や放出に関わっていると報告されています。ただし、PSが直接アセチルコリンを増やすかどうかは、研究段階の話です。
ストレスホルモン(コルチゾール)との関係
運動や精神的なストレスの後に分泌が増えるホルモン「コルチゾール」と、PSの関係を調べた研究も複数あります。まだ予備的な段階ですが、PSを摂取した人でコルチゾールの上昇が穏やかになる傾向を報告したものがいくつか見られます。
ただしこの分野の研究は小規模のものが多く、「確実にコルチゾールが抑えられる」とまで言える段階ではありません。
もっと詳しく知りたい方へ:PSの作用機序(細胞膜レベル)(クリックで展開)
PSは細胞膜の「内葉(内側)」に主に存在しています。細胞が活性化するシグナルが来ると、PSは膜の内側から外側へ移動する場合があり、この動きがプロテインキナーゼC(PKC)という酵素の活性化に関わるとされています。PKCは細胞内シグナル伝達に広く関与しており、神経細胞の生存・成長・可塑性(変化しやすさ)を支える一連の仕組みと連動していると考えられています。また、PSはホスファチジン酸(PA)を経由してDHA(ドコサヘキサエン酸)の代謝とも関連することが示唆されており、脳内のDHA維持に間接的に関わる可能性も議論されています。これらは現在も研究が続いているテーマです。
ホスファチジルセリンが減ると起こりやすいこと
脳内のPS量が加齢とともに減っていく——という話をしましたが、「減ったときに何が起きやすいのか」を整理します。
研究から報告されているのは、主に次のような傾向です。
- 名前や単語がすぐ出てこない、という「ど忘れ」が増える
- 新しいことを覚えるのに時間がかかる
- 複数のことを同時に考えるのが以前より難しくなる
- 集中力が続かない、頭が散りやすい

これ、40代以降の読者からよく聞くんですよね。「老化だから仕方ない」と受け流していた、という声も多くて。

私まだ30代なんですけど、すでに「ど忘れ」が増えた気がします…

加齢以外にも、睡眠不足や慢性的なストレスでPS量が減りやすいという指摘もあります。ただし「PSが不足している」かどうかを血液検査等で簡単に調べる手段は現時点ではないので、あくまで生活習慣とあわせて考えるのが現実的です。
食事からの摂取という点では、現代の食生活でPSを十分に摂ろうとするのはなかなか難しいのが実情です。大豆・卵・魚にも含まれますが、1日の推奨摂取量(研究で主に使われる100〜300mg)を食事だけで賄うには、相当な量を食べ続ける必要があります。

こんな方に選ばれている — 5つのパターン
PSに関心を持つ方には、いくつかの共通したパターンがあります。あくまで「こういう方が選んでいる」という傾向であり、特定の方に必ず合うとお約束するものではありません。
① 記憶・集中が気になってきた40〜60代の方 PSに関する研究の多くは40代以降の方を対象にしたもの。「最近ちょっと記憶が…」と感じはじめた時期に検討する方が多いです。
② 仕事・勉強で頭をよく使う方 長時間の集中作業が続く時期、試験前など、脳の働きを気にかけたい場面で取り入れる方も増えています。
③ 運動後のコンディションを整えたい方 激しい運動後のホルモン変動(コルチゾール)を気にするアスリートや運動習慣のある方に、PSを選ぶ方がいます。ただしこの分野の研究はまだ少なく、予備的な段階です。
④ 大豆・動物性成分を避けたい方 ひまわり由来のPSを選ぶことで、大豆アレルギーや食の制限(ビーガン等)に対応できます。
⑤ 親御さんの健康を考えるご家族の方 高齢の親の「記憶・認知を気にかけたい」という思いから、子どもや家族がサプリを調べることも多いです。

だいたい40代以上の方が多そうなイメージでしたが、若い人でも使うんですね。

受験生や勉強中の若い方から問い合わせをもらうこともありますよ。ただ、若い方への研究はまだ少ないので、そのことは記事でもきちんとお伝えしています。
形態ごとの違い — 大豆由来 vs ひまわり由来
現在市場に出回っているPSには、大きく分けて2種類の由来があります。それぞれの特徴をまとめます。
| 大豆由来(Soy PS) | ひまわり由来(Sunflower PS) | |
|---|---|---|
| 原料 | 大豆 | ひまわり種子 |
| 歴史・研究量 | 多い(1990年代〜) | 比較的新しい(2000年代〜) |
| FDAの表示認可 | あり(限定的) | なし(研究途上) |
| 大豆アレルギーへの対応 | 要注意 | 対応しやすい |
| GMO(遺伝子組換え)フリー | 非GMO表示品を確認 | 比較的多い |
| ビーガン対応 | 可 | 可 |
| 価格帯 | 比較的安価 | やや高め |

大豆由来PSは研究の蓄積が多い分、エビデンスという点では一歩リードしています。ひまわり由来は大豆を避けたい方の選択肢として注目されていますが、単独での大規模試験はまだ少ない状況です。

大豆由来でも「大豆アレルギーが出る」ことはあるんですか?

PS自体はタンパク質ではなくリン脂質なので、アレルギーの原因となるたんぱく質成分とは異なります。ただし製造工程での混入可能性が完全にゼロとは言い切れないため、大豆アレルギーが強い方はひまわり由来を選ぶか、かかりつけ医に相談するのが安心です。
もっと詳しく知りたい方へ:大豆PSと動物脳由来PSの違い(クリックで展開)
1990年代以前の欧州での臨床試験では、牛の脳由来PS(BC-PS)が使われていました。植物由来のPS(主に大豆)との構造的な違いとして、動物由来PSにはDHAを含む長鎖不飽和脂肪酸が多く結合していたとされています。現在主流の大豆・ひまわり由来PSにはオレイン酸・リノール酸が多く、DHAの含有量は少なめです。一部の研究者は「DHAとPSを組み合わせることで相乗的な関係が期待できる」と示唆しており、PS+DHA配合の商品が存在する背景はここにあります。ただしこの組み合わせに関する大規模な臨床研究はまだ限られています。
摂取のタイミングと組み合わせ

いつ飲むのがよいか
PSは脂溶性(油に溶ける性質)なので、食事と一緒に摂るほうが吸収されやすいとされています。研究でも食事とともに摂取するデザインが多く用いられています。
1日の摂取量の目安は100〜300mgです。多くの研究では、この範囲を1日2〜3回に分けて摂るデザインが採用されています。夜にだけまとめて摂るよりも、朝・昼・夜のいずれかの食事に分けて摂る方が扱いやすいでしょう。
「いつ飲めば特に良い」という明確な答えはまだ研究データが十分ではないため、まずは継続しやすいタイミングに食事と合わせて摂るという考え方が実用的です。
他の成分との組み合わせ
PSと一緒に摂られることが多い成分と、その背景を整理します。
DHA(オメガ3脂肪酸) 脳の神経細胞に関わるという点でPSと重なる部分があり、組み合わせた商品や研究が存在します。DHA自体も単独で研究が進んでいる成分なので、組み合わせの相乗的な関係への関心は高まっています。ただし「PSとDHAを一緒に摂れば確実に効果が出る」と断言できる段階ではありません。
コリン系成分(α-GPC など) 神経伝達物質・アセチルコリンに関わるという観点で、PSとの組み合わせを選ぶ方がいます。後半で紹介する商品の中にも複合配合のものがあります。
ビタミンB群 全身の代謝を支える栄養素として、サプリを組み合わせる方は多いです。PSとの直接的な相乗的関係を示す研究は限られていますが、神経系全体を気にかけたい方の「ベースセット」として組み合わせるケースがあります。

「何と組み合わせれば一番いいですか?」という質問は本当に多い。でも正直なところ、まず1種類を継続して様子を見るほうが、何が自分に合うかを判断しやすいですよね。

たしかに、最初から5種類いっぺんに飲み始めたらわからなくなりますよね。
実際に選ばれている商品と飲み方
ここからは、iHerbで取り扱われているPSのサプリを紹介します。成分・形態の一般的な話をお伝えしてきましたが、「具体的にどんな商品があるの?」という方の参考になれば幸いです。商品はあくまで選択肢のひとつ。ご自身の状況に合わせて検討してください。
大豆由来PSの定番2選

Jarrow Formulas, PS100, 100 mg, 120 Softgels
- 形態
- ソフトジェル
- 参考価格2026/07/07時点
- ¥14,801

Doctor's Best, Phosphatidyl Serine, 100 mg, 120 Veggie Caps
- 参考価格2026/07/07時点
- ¥5,067
ひまわり由来PSを探している方へ
大豆が気になる方や、GMOフリーを優先したい方にはひまわり由来のPSが選択肢になります。

California Gold Nutrition, Sunflower Phosphatidylserine, 100 mg, 120 Veggie Capsules
- 形態
- カプセル
- 参考価格2026/07/07時点
- ¥5,594
PSを含む複合配合タイプ
PSにαGPC(コリン系成分)・カルシウム・リンを組み合わせた商品もあります。複数の成分をまとめて摂りたい方向けです。

California Gold Nutrition, Brain Health with Alpha-Glycerophosphorylcholine, Calcium, Phosphorus and Phosphatidylserine, 60 Veggie Capsules
- 形態
- カプセル
- 参考価格2026/07/07時点
- ¥4,021

どの商品も1粒あたり100mgのものが多いですが、1日に何粒飲むかは商品の説明書きや、かかりつけ医・薬剤師の指示に従ってください。
注意点と医薬品との相互作用

PSは一般的に安全性が高いとされており、研究で使われてきた用量(100〜300mg/日)での有害事象の報告は少ないです。ただし、以下の点には注意が必要です。
抗凝固薬・抗血小板薬を使用中の方
PSは血液の凝固に関わる仕組みと一部つながりがあるとされており、ワルファリンやアスピリン(血液をさらさらにする薬)を服用している方は、摂取前に必ず医師や薬剤師に相談してください。
妊娠中・授乳中の方
この時期の安全性についての研究データが十分でないため、摂取を控えるか、必ず医師に相談してから判断してください。
胃腸の不調
高用量(300mg以上)を摂取した場合に、一部の方で胃もたれや吐き気が報告されています。まず少量から始めるのが無難です。
認知症の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)との関係
薬の仕組み上、PSと相互に影響する可能性が理論的に指摘されています。認知症の治療薬を使っている方は、PSを追加する前に必ず担当医に確認してください。
もっと詳しく知りたい方へ:PSの長期摂取に関する安全性データ(クリックで展開)
大豆由来PSについては、1日300mgを数ヶ月〜6ヶ月程度継続した試験での安全性は概ね良好とされています。ただし1年以上の長期にわたる安全性データはまだ限られており、「長期間にわたって問題ない」と確信を持って言える研究の数は多くありません。FDA(米国食品医薬品局)のGenerally Recognized As Safe(GRAS)判定は大豆PSに対して申請されていますが、長期高用量については引き続き注意が必要です。また、サプリメントの品質管理は製品によって差があるため、GMP(適正製造規範)認証工場での製造品を選ぶことが重要です。
よくある質問
Q. ホスファチジルセリンはいつから飲み始めれば良いですか?
A. 年齢の目安は研究によってさまざまですが、多くの試験では40歳以上の方を対象にしています。「最近、記憶や集中が気になってきた」と感じはじめた時期に検討する方が多いです。若い方の研究はまだ少ないため、目的と状況に応じて判断してください。
Q. 効果はいつ頃から感じられますか?
A. 研究でも「いつから体感が出るか」は個人差が大きく、一概に言えません。多くの試験では6〜12週間の継続摂取後に評価しているものが多いです。数日で何かを感じるようなものではなく、継続することが前提の成分と考えてください。
Q. 大豆アレルギーがあっても飲めますか?
A. 大豆由来PSはタンパク質を含まないリン脂質ですが、製造工程での混入リスクが完全にゼロとは言い切れません。大豆アレルギーが強い方は、ひまわり由来PSを選ぶか、かかりつけ医にご相談ください。
Q. ホスファチジルセリンとDHAは一緒に摂れますか?
A. 両方とも脂溶性の成分で、食事と一緒に摂るのが一般的です。組み合わせを避けるべき理由は特に知られていませんが、「必ず組み合わせなければ意味がない」わけでもありません。まずPSを単独で継続してみて、慣れてから組み合わせを検討するのが扱いやすいでしょう。
Q. ホスファチジルセリンに耐容上限量はありますか?
A. 現時点では日本の機関から耐容上限量は設定されていません。研究で主に使われてきた範囲は1日100〜300mg。300mgを超える量での長期安全性データはまだ十分ではないため、必要以上の高用量を摂り続けることは控えるのが無難です。
まとめ
ホスファチジルセリン(PS)は、脳の神経細胞の膜に多く含まれるリン脂質で、加齢にともなう記憶・認知の維持に関する研究が積み重なっている成分です。
- 食事からの摂取は難しく、現代の食生活では不足しがちな成分
- 大豆由来とひまわり由来があり、アレルギーや食の制限に応じて選べる
- 1日の目安は100〜300mg、食事と一緒に脂溶性なので食後が吸収しやすい
- 抗凝固薬・抗血小板薬を使っている方は必ず医師に相談
- 「体感が出るまでの期間」は個人差が大きく、継続が前提
研究は積み重なっていますが、「誰でも確実に」とまで言える段階ではありません。生活習慣や食事の見直しを前提として、必要に応じてサプリを検討するという考え方が、現実的で安全なアプローチです。
気になる症状が続く場合・お薬を服用中の方は、医師または薬剤師にご相談ください。
※ 本品は医薬品ではありません。病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。
参考文献
参考文献(クリックで展開)
- Crook TH, et al. Effects of phosphatidylserine in age-associated memory impairment. Neurology. 1991;41(5):644-649.
- Vakhapova V, et al. Phosphatidylserine containing omega-3 fatty acids may improve memory abilities in non-demented elderly individuals. Dement Geriatr Cogn Disord. 2010;29(5):467-474.
- Hellhammer J, et al. Effects of soy lecithin phosphatidic acid and phosphatidylserine complex (PAS) on the endocrine and psychological responses to mental stress. Stress. 2004;7(2):119-126.
- NIH Office of Dietary Supplements. Dietary Supplement Fact Sheet. (参考情報として参照)